祝 続編決定
[作品情報]
タイトル:ファインディング・ニモ (英題:Finding Nemo)
監督:アンドリュー・スタントン、リーアンクレッチ
脚本:アンドリュー・スタントン、ボブ・ピーターソン、デヴィッド・レイノルズ
製作総指揮:ジョン・ラセター
音楽:トーマス・ニューマン、ロビー・ウィリアムズ
出演:アルバート・ブルックス、エレン・デジェネレス、アレクサンダー・グールド、ウィレム・デフォージェフリー・ラッシュ
公開:2003/12/06
ストーリー
舞台はオーストラリア・グレートバリアリーフの海。クマノミのマーリンは妻のコーラルといっしょに卵の世話をしながら、2日後の子供たちの誕生を楽しみにしていた。ところが突然オニカマスに襲われ、幸せな日常に終止符が打たれる。気を失っていて助かったマーリンが意識を取り戻すと、妻と卵たちは姿を消していた。だが、たったひとつだけ卵が残されていた。たった一匹残った子に、妻の遺志を尊重するべくニモと名付け、父マーリンは過保護に育てる。ニモは片方のヒレが小さく、あれこれと心配し過ぎるマーリンにニモはうんざりしていた。はじめて学校に行った日、ニモはひとりで船に近づいてゆき人間に捕らわれてしまう。ニモを取り戻すため、マーリンはナンヨウハギのドリーといっしょに旅を始める。(Wikipediaより)
[予告編]
※分析・解説記事なので物語の中身に大きく言及しています。作品をご鑑賞の上お読みください。
ファインディング・ニモを構造から分析する
今回は2003年公開の映画『ファインディング・ニモ』についてです。
なんでまた13年前の映画を今になって取り上げるんだと思う方も多いでしょうが、実は『ファインディング・ニモ』の続編『ファインディング・ドリー』が今年2016年7月に公開されることになっているので、その前のおさらいとしてニモのついての解説をしてみようと思うんです。
とはいっても、普通の感想記事にするにはあまりにも公開から時間が経ちすぎているので、今回はいつもとはちょっと違った角度からこの作品を見てみたいと思います。
三幕構成という言葉をご存じでしょうか。
三幕構成とはシナリオ構成の仕方で、物語を第一幕、第二幕、第三幕と分けて展開させるやり方です。その際各幕の長さは1:2:1になるのが良いとされ(2時間の映画の場合第一幕が30分、第二幕が1時間、第三幕が30分となります)、幕が変わるたびにきっかけとなる出来事を挟み込んでいく、という構造になっています。
日本には起承転結という筋のお手本がありますが、三幕構成も考え方は似たようなものです。
この三幕構成の形はハリウッド、特にアクション映画などで多用されており、ハリウッド的エンタメな筋はこの形で書かれることがほとんどです。ちなみに古くはギリシャ神話などにもこの三幕構成が使われており、物語の筋の黄金比とも言えるのかもしれません。(三幕構成やプロットのパターン分けなど映画の筋構成を構造的に解説した本やサイトもたくさんあるので、気になる方は各自調べてみてください)
で、今回は『ファインディング・ニモ』を三幕構成の考え方に沿って、構造的に分解・解析してみたいと思います。
まず分析に入る前に、この作品の全体の尺がどれくらいなのかを調べます。いちばん手軽にウィキペディアで検索をかけてみると「上映時間100分」の記述がありました。ウィキペディアだけだと信頼性に欠けるので実際にDVDをプレイヤーにセットし、一番最後まで早送りをかけてみると1時間40分27秒くらい。分になおせば100.27分。ウィキペディアは正しかったようです笑
(ちなみにこの分数はエンドクレジットまで含んでいます)
さあ全体の尺の長さが分かったので、今度はこの分数を三幕構成に当てはめてみます。すると、
第一幕が0~25分
第二幕が25~75分
第三幕が75分~100分
くらいの割合になるということが分かります。(キリよく100分なので分割しやすい笑)
ここまで分かればあとは簡単。幕と幕が変わる場面―今回はこれを転換点と呼ぶことにしましょう―に特徴的なエピソードや演出がなされているのかを検証します。『ファインディング・ニモ』が三幕構成の形をとっていれば、25分ごろに第一転換点が、1時間15分ごろに第二転換点が訪れているはずです。
ということで、DVDを巻き戻し、一番最初から時間を気にしつつ観てみます。今回は転換点以外にも特徴的なエピソードを拾ってみました。
以下が大まかな時間と、その時間に起こったエピソードです。
『ファインディング・ニモ』
本編:1時間40分27秒(100.27分)
0分~5分 世界観やマーリンの過去、ニモの生まれについてざっと説明。バラク―ダとのちょっとした格闘シーンもありつかみはバッチリ。さすがピクサー。
5分 狙ったのか偶然か、ぴったり開始5分でオープニングタイトルが出てきたのでびっくりしました。ニモの卵が太陽と重なって、綺麗なサンゴ礁に移っていくカットが印象的。またこのあたりで後の伏線となるような会話も仕込まれています。(例えば「パパ、サメに会ったことある?」や「ウミガメって何才?」など)
16分 ニモがさらわれ、マーリンがドリーと出会います。
(18分 ドリーが「家族そろって忘れっぽいの……家族はどこ?」と発言)
25分 機雷が爆発した後、水槽の場面に移ります。これはニモが父親と離ればなれになったあと、初めてのニモ単独シーンとなります。ここからマーリンとニモのパートが交互に展開されていきます)
35分 アンコウとの格闘。ドリーがマスクに書かれた住所を読み、初めて記憶が持続します。
47分 マーリンとドリーがクラゲの群れに遭遇し、ドリーが負傷します。この傷についてマーリンは後々まで後悔し続けます。
50分 ニモが水槽のタンクを止める任務に成功し、マーリンとドリーがカメのクラッシュに助けられます。
56分 クラッシュや彼の子供たちに、マーリンがこれまでのいきさつを語ります。マーリンが自分と向き合ううえで大事なシーンです。
1時間6分 マーリンとドリーがクジラに食べられます。
1時間15分 ニモが水槽から袋に移され、ダーラが登場します。(ここで網に入れられたニモを救うため、水槽の魚たちも網に入って下に泳ぐのも伏線になっています)
1時間20分 ニモが下水へ脱出
1時間25分 ドリーがすべてを思い出し、ニモとマーリンが再開します。
1時間30分 それぞれ成長した親子が新しい生活を始めます。
1時間30分~1時間40分 エンドロール
ざっと書き出してみたところで、感動の涙を拭いて分析に入ります笑
まずはオープニングタイトル。はじまってきっかり5分のタイミングでタイトルがでてきてびっくりしました。
そして三幕構成で重要な転換点。今作は全体が1時間40分の尺なので第一転換点が25分、第二転換点が1時間15分ごろに訪れると割り出しましたが、上のエピソード一覧では赤字で記した部分がそれぞれの転換点に当たります。ニモがいる場所の移り変わりに沿って、幕が転換しているのが分かるでしょうか。
つまり
第一幕 ニモは海
第二幕 ニモは水槽
第三幕 ニモは袋の中、そして再び海へ
という構造になっているのです。転換のタイミングもばっちり。このように『ファインディング・ニモ』は三幕構成のお手本のような構造をしていることが分かります。
また転換点のほかに、だいたい10分おきに興味をひくような、あるいは物語上かかせないようなエピソードが展開されていることも分かります。しかもクライマックス部分でのスピード感を出すために、第三幕に入ると5分おきになるようにも設計されています。
映画の筋の構造としてとても美しく組み立てられているということが、時間を計測しながら観てみてはっきり分かりました。この三幕構成の考えに沿って時間で分割するやり方は、映画の見方のひとつとして使えるやり方だと思われます。
ファインディング・ニモを大筋から分析する
ここまで『ファインディング・ニモ』をストーリーの構造から分析してみましたが、せっかくなので純粋なストーリー・プロット的な側面からも少し見てみたいと思います。
さて、この作品は『ニモを探せ!』(一昔前の邦題っぽいセンスです)というタイトルからも分かる通り息子を探す旅に出た父親の話ですが、通常このような映画の場合は父親視点で話が進んでいくのが普通です。なぜなら誘拐された息子の視点では話が進むことができないからです。
普通誘拐された人物はどこかに監禁されます。犯人は素性を隠していることが普通だし、誘拐された人物と犯人が触れ合うなんてことはない。となると誘拐された息子側からの視点からは描くものがないのです。だから父親(あるいは母親)が手掛かりを探しながら敵を倒す、というような描き方がほとんどになってしまうのですが……。
この映画は違います。理由は二つ。物理的なものと、精神的なものがあります。
物理的な理由とは、今作の登場人物が人間ではないということ。
誘拐された息子(ニモ)が監禁される部屋は仲間(他の魚たち)がたくさんいる水槽で、誘拐の犯人(ダイビングが趣味の歯科医)は魚を捕まえただけだと思っているので素性を隠したりしません笑
また主人公が人間であれば、例えばジェームズ・ボンドやジェイソン・ボーンやジャック・バウアーなどであれば、人質が監禁されているアジトに飛び込んでロケットランチャーを1、2発ぶっ放した後、人質を連れて脱出するなんて芸当もできますが、なんせ今作の主人公はそう、カクレクマノミ。
ロケットランチャーはおろか、アジト(歯科医院)に飛び込んだが最後、息子(ニモ)と同じ水槽に入れられてお終いになるのは目に見えています。
つまり、登場人物がおさかなである以上、囚われている人質(ニモ)の側もある程度努力して脱出しないと解決できない構造になっているのです。というか、ニモが水槽から出て、歯科医院から脱出しないとどうしようもありません。ぶっちゃけ物理的な脱出の上でマーリンにできることはあまりないのです笑
ではなんでマーリンのパートが必要なのかというと、それが精神的な理由になってきます。
つまり、物理的に再開を果たすのとは別に、それぞれが精神的に成長することが必要になってくるのです。そのためにはマーリンのパートとニモのパートでそれぞれが成長できるエピソードを描かなければいけなくなってきます。
このような二つの理由から、今作では息子を追う父親だけでなく、助けを待つ息子の双方からの視点が描かれているのです。
そして、そのような視点を通して描かれている大きな柱が「子離れ」というテーマです。
過去のトラウマからなかなか子離れできない父親が、仲間との冒険や息子の成長を通じて、本当の意味で子離れする。というのが『ファインディング・ニモ』におけるテーマだといえます。
映画が親子が再開する場面ではなく、マーリンがニモを笑顔で送り出すところで終わっていることからもそれが分かります。
こうしてみると『ファインディング・ニモ』は物語の大筋に必要な要素を、適切な位置に詰め込んでいるということがハッキリ見えてきます。
そして物語はファインディング・ドリーへ
さて、記事の冒頭でも触れましたが、今作の続編『ファインディング・ドリー』について触れて記事を締めましょう。上記のエピソード一覧の中にピンク色で記した部分がありますが、あの部分続編への伏線となり、ドリーが家族を探す旅に出るという物語になるようです。
以下がその特報です。
全米公開が今年の6月17日で、日本では吹き替えが『ファインディング・ニモ』に引き続き木梨憲武・室井滋に決定しており、今からとても楽しみです!
物語は『ファインディング・ニモ』から数か月後が舞台とのこと。『ファインディング・ニモ』DVDの特典映像の中のメイキングでは「ドリーは孤独を抱えており、それに対する不安が彼女の健忘症の原因になっている」ということが示唆されていますが果たして……?
これを機会に『ファインディング・ニモ』をおさらいして、『ファインディング・ドリー』の公開を待ってみてはいかがでしょうか!!?
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