桐島の不在にかき回される”日常”。
[作品情報]
タイトル:桐島、部活やめるってよ
監督:吉田大八
脚本:喜安浩平
主題歌:高橋優 「陽はまた昇る」
原作:浅井リョウ 『桐島、部活やめるってよ』
出演:神木隆之介、橋本愛、東出昌大、清水くるみ、山本美月、松岡茉優、落合モトキ、浅香航大、前野朋哉、高橋周平、鈴木伸之、榎本功、藤井武美、岩井秀人、奥村知史、太賀、大後寿々花
公開:2012/08/11
ストーリー
とある高校の映画部に所属する前田(神木隆之介)はクラスの中では地味で目立たない存在であったが、映画に対する情熱は人一倍強い、いわゆる”オタク”系な男子だった。金曜日、そんな彼や、彼の同級生たちはいつもと変わらない日常の中にいたが、男子バレーボール部のキャプテンだった桐島が、突然部活を辞め学校にも来なくなったことをきっかけに、同級生たちの間に変化が起きていく。
[予告編]
神を待つ人々に、救済は訪れるのか
ということで、久しぶりの更新ですがまたまた邦画を解説します笑
今更感は満載なんですが、久々に見返してみたらやっぱり面白く、語りたいことがたくさんあったので今日は『桐島、部活やめるってよ』の解説です。
タイトルにもある通り、桐島が部活をやめると。
その一連の出来事を描いていたわけですが、桐島は一度も画面に登場しませんでした。
じゃあ桐島は一体何だったんだ!っていうことが一番初めに浮かんできそうな疑問なわけですけど。
この桐島っていうのは一体何なのかってことに対して、「桐島っていうのはキリストのことじゃないか」っていう風に解説している人がいるんですね。彼はキリストと同じだと。
つまり、こう言っちゃうとあれですけど、キリストっていうのは存在してないわけですよね笑
いや、その、クリスチャンの方々は信じているかもしれないですけど、少なくともクリスチャンじゃない人達は、僕も含めて、キリストの存在を信じてない人がほとんどだと思うんです。
でも、キリスト教徒の人たちはキリストの存在を信じていて、その存在だったり、言葉だったりを信仰して、キリストの復活を待っているわけです。
それがいつになるのかなんて全然分からないけど、信じて待つ訳ですよ。
まさにこの映画の中で起こっていることと同じですよね。キリストと同じくらい全知全能とまでは言いませんが、桐島くんは「万能タイプ」なわけですよ。バレー部のキャプテンで、可愛い彼女がいて、塾に通ってて勉強も普通に出来るんでしょうね。他のスポーツも万能にこなせるんでしょう。
周りの友達からも愛されていて、バレー部の部員からも頼られている。
そんな桐島君が部活をやめて、学校に来なくなってしまった。
周りの人間からすると一大事です。大事件なんです。
なんたって、あの桐島君がいなくなっちゃったから。彼らにとっては神と同じような存在なわけですよ!
で、いつ戻ってくるのか、そもそも戻ってくるのかも分からないけれど、仕方ないから彼らは待つんですね。桐島君が戻ってくるのを。
つまりこの映画は要を失って何をしたらいいのか分からなくなっちゃって右往左往する人々を描いているわけですね。
この映画の主人公は誰?
ただ一方で、桐島君なんて気にも留めていない人達もいるんですね。
それは映画部の前田君だったり、吹奏楽部の部長の子だったりです。
この二人は桐島君っていう神なんて必要としてないわけです。だって神を信じてすがる必要なんてないんですから。前田君には映画が、部長には(ごめんなさい役名を忘れました笑)吹奏楽という打ち込めるもの、神以外に信じられるものがあるんですから。
『桐島、部活やめるってよ』ってタイトルだから、きっと桐島くんが主人公なのかなあとか、神木君が桐島なんだろうなあって思ってた人が多いと思うんですけど、違いますよね。
この映画は前田君っていう映画部の冴えない、クラスでも底辺のような男の子が主人公です。
これは、前田君が桐島という神の存在にもぶれない人間だったからですよね。
映画を観ていく上で、前田君はある意味で傍観者なわけです。学校のカーストでも最低辺にいるような男の子ですけど、きっと前田君はそんなこと気にしていなくって。
学校っていう閉鎖された関係の中でも、ひとつ外側にいるような人間なんですよね。
映画を観ている人と同じような視点に立てる。だからこの映画の主人公なんですよ。物語を見るうえで一番良い立ち位置にいるから。
でも構造的な主人公は前田君でも、ストーリー的な主人公は別ですよね。
じゃあそのストーリー的な主人公が誰なのかっていうと、宏樹君だと考えてみれば、ひとつの成長の物語として捉えられるんじゃないでしょうか。
この映画のストーリー的なスタートは、担任の先生に進路希望調査を配られるってとこです。
ここの場面で、ストーリー上の主人公である宏樹君は「お前はこれからどうやって進んでいくんだ」って問われたわけです。
部活をやめて、ふらふらしている宏樹くんですけど、彼も無難になんでもこなせるタイプの人間なんでしょうね。
桐島君ほどじゃないんでしょうけど、スポーツも、勉強もそれなりに出来て可愛い(性格は最悪でしたけど笑)彼女もいて。
神と人間の堺みたいな存在なんですよ笑
でもだからこそ色々と悟ってしまってるんですよね笑
宏樹君が入っていた野球部のキャプテン、もう3年生なのに部活に残ってましたが「ドラフトがおわるまでは」なんて、スカウトも来ていないのに野球を続けていたわけですけど、彼も一種の信仰者ですよね。彼が待ってるのは野球で食っていける人生だったわけです。
でも宏樹君はもう悟ってるんですね。野球なんか続けてたってどうしょもない。プロになんかなれるわけがない。
恋愛についてもそうでしょう。宏樹君の友達のパーマの子は「セックスしまくりが良い」とか、桐島君の彼女が大学生と付き合ってたとかいう噂を聞いて「ちょっと勃〇してきた」とかもう一人の子と話してましたけど、宏樹君は興味なさそうでした。
きっともう彼はしてるんですよ彼女と。でも想像してたほどじゃなかったんでしょうね。彼女と校舎の裏でキスをするシーンがありますけど、ものすごい楽しそうな彼女と比べて宏樹君は終始無表情。
悟ってるんですよ。
逆に言えば、何に打ち込んだらいいのか分からない。何にマジになったらいいのかも分からない。そんな感じなんですね宏樹君は。
そんな感じだったんですけど、桐島君といればどうにかなるかなと思ってたと思うんですよ。
神の後をついていけばいいかなって。
でもその神がいなくなっちゃった。
宏樹君にしたらそりゃパニックですよ。自分が何したらいいのか分からなくなって、桐島君についていけばいいかなんて思ってたら当の本人がいなくなっちゃって。
ありのままの宏樹君が問われるわけですよ!この進路希望調査で。
「ありのーままのー宏樹みせるーのーよー」って感じです笑
でもみせられるものなんて何もないわけですよ宏樹君には。
それで、どうすんの宏樹君!っていうのがこの映画のストーリーとして、中心に据えられてるところだと思うんですね。
結局どうなったのよ。
どうしたらいいのかわからなくなっちゃった宏樹君と周りのリア充な友達ですが、その中の一人が屋上から飛び降りた宏樹君らしき人を目撃して、彼女とか、バレー部とか、神を待っている人たちがみーんな屋上に集まってきますね。
結局桐島君はそこにはおらず、代わりに映画部のメンバーがゾンビの格好をしていたわけですけど笑
(結局飛び降りたのが誰だったのかは分からずじまいです。映画部が屋上に向かう時に、屋上から出てきた人とすれちがってましたが、あれが桐島君なのかは不明。エンドクレジットにも屋上の人としかクレジットされていませんでした)
桐島君はいないし、代わりに変なやつらしかいないことに怒ったバレー部のゴリラが、映画部の隕石を蹴ってしまい、それに怒った前田君たち映画部がゾンビの逆襲を決行することになり笑
笑ってつけましたがここ全然笑っていられるシーンじゃないんですね笑
前田君は映画部がリア充共に復讐する中で8mmカメラを回すわけですけど、僕たち観客に見せられるのは実際に起こった映像じゃなくて、前田君がカメラを回しながら頭の中で編集した映像なんですね。
そしてその映像の中で橋本愛ちゃん演じるかすみちゃんを食い殺すわけですね。(余談ですが僕はこの映画を観てやっと橋本愛ちゃんの良さが分かりました笑)
このかすみちゃんがまた捉えどころのない女でして…笑
結構この映画を観たって人から「よく分かんなかった」って感想を聞くんですけど、その原因が登場人物が心の声を語ってないってことなんですよ。
例えばバドミントン部の女の子(僕はこの子が一番好き笑)が宏樹君の彼女に「よく部活なんてやってられるね」って言われて「内進のためだから」って言った後、同じバド部のかすみちゃんにだけは「さっきの嘘だから。バドが本気で好きだから。でもホントのこと言ったら馬鹿にされるから」って言うシーンがありましたけど、こんなことばっかなんですよこの映画笑
ていうか現実でもこういうことって多いですよね。
「ホントはこう思ってるんだけど」っていうのはあるけど、言い出せない。
誰かがこっちを指さして笑っているような気がするから。
バド部の子は比較的、心の声を口に出してましたけど、他の人たちは自分が何を思っているのか言わないんですよね。
喋ってはいるんですけど、それが本当なのか分からない。
それを僕たちは見極めなくちゃいけないんですよ。
で、かすみちゃんもその典型的な子で。
観てる側からすると、「お?意外と前田君に気があるのか?」なんて期待させておいて、教室でパーマといちゃいちゃしたり。(胸が痛くなるシーンでした笑)
かと思いきや宏樹君の彼女を屋上で平手打ちしたり。
何が本当の気持ちなのかが分からないんですね。
そこがリアルなんですけど。
でも前田君にしたら、裏切られたわけですよ。勝手に前田君が期待しただけにしても、です笑
立派な失恋です。
吹奏楽部の子も、宏樹君のことが好きだったけど、彼女とキスしているところを見せ付けられて失恋してます。
二人にとってかすみちゃんや宏樹君は神のような存在だったわけです。
でもその神はいなくなってしまった。
宏樹君や、その友達や、バレー部と一緒の状況になったんですよあの屋上のシーンは。
でも、二人が決定的に違ったのはほかに打ち込めるものがあったってことですよね。
他の人たちは神を失って右往左往するしかなかった。戻ってくることを信じて待つしかなかったけれど、二人は映画と吹奏楽部に神を見出すことが出来たわけです。
失恋という挫折をほかのものに昇華させられたんですよ。
ここが分岐点ですよね。自分が何をしたらいいか分かってる人は強いんですよ。
この後前田君と宏樹君が語り合うシーンがありますけど、これはもう完全に前田君の勝利の瞬間ですよね。
カーストの底辺にいるような前田君が、宏樹君に勝ったんですよ。
前田君はそんなこと思ってないかもしれないですけど、宏樹君は感じてましたよね。
「いいよ俺は。いいって」
ここでもやっぱり心で思ったことは口にハッキリ出さないんですけど、自分が何者で、何をするべきなのかっていう点で、前田君に負けてるということを彼がハッキリと感じるシーンだったわけですねここが。
注目してほしいのは宏樹君が背負ってる野球カバン。
高校名が刺繍されてるんですけど、ハッキリと「Shorai」って書いてあるんですよ。
将来ですよ将来。
宏樹君はずーっとこのカバンを背負ってる、というか紐が短いのでカバンがのしかかってるようにも見えるわけですけど、ずーっとこのおっきいカバンを背負ってるんですよ。
何がそんなに詰まってるんだか分からないですけど
おっきい将来を背負ってるんですよ。
でもカラッポなんです。
エンドクレジットを見てほしいんですが、前田(映画部)みたいに書いてある中、宏樹( )って書いてあるんですよ。
何が言いたいのかは分かりますよね。
カッコ()つけてるけど笑、その中には何もないんですよ笑
そういう男なんです宏樹は。
こっからも分かるように、この映画は自分が何者で、何をしたらいいのか、自分の将来がなんなのか分かんなくなっちゃった宏樹君が、どうにかしようとする話なんです。
前田君と別れた後、宏樹君はもう一度桐島君に電話をかける訳ですけど、結局繋がりません。
未だ神は不在です笑
神がいない状態で野球部を見つめる宏樹君ですけど、この後彼がどうしたのかは分からないまま物語は終了します。
分からずじまいです。
だから考えるしかないんですよ。
いっつもこのブログで言ってるんですけど、映画は考えて観るもんなんです。
この映画も色々考えながらもっかい観てみると面白いと思います笑
ちなみにこの映画、金曜日から火曜日までを描いた映画ですけど、宏樹君たちに出された進路希望調査は水曜に提出だと言っていました。
彼らの水曜日はどんな水曜になったんでしょう。
以上、『桐島、部活やめるってよ』でした。
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