2018年11月17日土曜日

『走れ、絶望に追いつかれない速さで』感想

若者たちは、太陽を目指した。






去年の6月15日に渋谷ユーロスペースで初めて鑑賞して、ものすごく感動した映画です。

その後24日に鑑賞&トークショーに行って、監督の言葉に感銘を受けてクラウドファンディングにちょっとだけ参加。





その特典として送られてきたDVDを2回観て、ようやく考えがまとまりそうなのでこのブログを書いております。

「一回観てる映画だし流石にもう泣かないだろ」なーんて思いながら自宅で観てたんですけど、あっさり泣きました。ほんと、めっちゃ泣けますこの映画。

トークイベントとかインタビューとかで監督がおっしゃってるように、タイトルの「走れ、絶望に追いつかれない速さで」というのは自殺してしまった中川監督の友人が実際に言っていた言葉だそうで。

本作を作った理由も、自殺してしまった友人がそんな言葉を発したことの意味について描きたかったからだと語っています。

(参考:https://motion-gallery.net/projects/hashire


主演の太賀くん演じる漣も自ら命をたった親友が死んでしまった理由を探す旅にでるわけですが、その過程がすごくずっしりとくる。

死者は何も語らないから、生者はそこに意味を探すし、意味があってほしいと信じたい。

そんな純粋な思いに突き動かされて、漣は薫の死に意味を求めていたんだと思います。

薫が吸っていたタバコを吸ってみるし、嫌いなトマトも食べてみる。

だからこそ富山まで行き、薫が最期に描いた中学の同級生に会った時、「走れ、絶望に追いつかれない速さで」のフレーズを耳にして死の意味が見つかるかもしれないと希望を持ったはずです。

そして、実はそれがビジュアル系バンドの歌詞だったと知るシーンはとても強烈。

薫の死や、あいつが言っていたことなんて実は大した意味なんてないって言われるのと同じだから。

それでも漣は旅館で、薫が死ぬ直前に描いた「真っ赤な太陽とそれに向かって飛び立つ人」の絵を見て、日常に戻り、不仲だった親父に電話し、ハンググライダーで太陽を目指したりしてみるようになる。

実際に漣が薫の死に意味を見出したのか、そしてそれがどんな意味だったのかははっきりとは分かりません。

でもきっと、「一番好きなことを仕事にするべきじゃない。機械みたいに働きたい」っていう薫の言葉で何か思うところがあったんだろうなと想像はできます。

それはきっと「何か将来に対する唯ぼんやりとした不安」のようなものだと思うし、これは現代の若者の自殺に共通するようなことなんじゃないかと思います。

(全然関係ない話だけど、今から100年くらい前に芥川龍之介は同じような理由で自殺しているから、これは現代に限ったことではないのかもしれないけどね)

いずれにせよ薫くんは絶望に追いつかれないようにするためにどうしたらいいのか、考えた上で自死っていう選択をしたんだと思うし、漣くんは漣くんなりに別の選択をしてもうちょっと走ることに決めたんじゃないかと僕は思いました。



全編にちらつく赤

観ていてすごく気になったのは、赤い色が印象的に使われていることです。

特に薫の周りにこの色が多い気がしました。

まずは薫が吸っていたタバコ。

多分ポールモールだと思うんですが、箱が真っ赤。

(命を絶った監督の友人が吸っていたものと同じ銘柄だそうです)

それからトマト。安く買ってきたと言いながら齧り付くシーンが印象的でしたがこれも真っ赤。

上映後に監督と少しだけお話しする機会があったのですが、富山から帰ってきた漣が車の中で齧っていたのもトマトだと監督が教えてくださいました。

これら二つは漣が薫の死を理解するために、吸ったり食べたりするものなのでとても意味深い気がします。

それから太陽。

薫が最期に描いた絵の太陽は真っ赤でした。

ハンググライダー。

漣が軽トラの荷台から見上げた先に飛んでいたハンググライダーも赤い色をしていました。

(冒頭で薫が乗っていた車も真っ赤でしたが、これはあんまり関係ないかも)

こうした色使いが何か意図してるものなのかはわかりませんが、僕はとても印象的に感じました。



文化の地方格差

映画の内容とは直接関係ないんですが、トークイベントで監督が語っていて、すごく心に残ったので書いておきます。

詳しくは別のブログに書いたので、(http://takeshin619.hatenablog.com/entry/2016/06/19/212313)こっちも読んで観てください。

簡単に言ってしまうと地方では日本のマイナーな映画なんて全然観られなくて、存在さえも知られていないことが多い。

でも、本当は本作みたいに凄くいい作品も多いんですよね。

実際僕も北海道の片田舎から東京へ出てきて、邦画ってこんなに面白い作品がたくさんあるんだって思ったものです。

フランスの伝統的な映画雑誌「カイエ・デュ・シネマ」は本作をこのように評しました。


東京国際映画祭の目的はこの監督のような「クール・ジャパン」とは程遠い、極めて感度の高い作家を支えることにある。

ともすると見過ごされかねないこのような監督を創作の世界の端から主流のステージに持ってくることが必要だ。

https://motion-gallery.net/projects/hashire

この映画を通じてたくさんの人に、邦画の面白さや、中川監督の作る作品の静かだけど、どこかヒリヒリするような感覚を知ってほしいです。

4月4日よりレンタルも始まってますし、今年はまた新作が公開されるようなので、是非是非チェックしてみてください!!






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