2016年5月6日金曜日

【今更】『ルーム』 ネタバレ感想!

母と子で、世界を見た





[作品情報]

タイトル:ルーム  (原題:Room)


監督:レニー・エイブラハムソン
撮影:ダニー・コーエン
音楽:スティーブン・レニックス
原作:エマ・ドナヒュー『部屋』


出演:ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョアン・アレン、ウィリアム・H・メイシー、ショーン・ブリジャーズ、トム・マッカムス


公開:2016/04/08


ストーリー
ママ(ブリー・ラーソン)と5歳の誕生日を迎えたジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)は、天窓しかない狭い部屋で暮らしている。夜、二人がオールド・ニックと呼ぶ男がやってきて、服や食料を置いていく。ジャックはママの言いつけで洋服ダンスの中にいる。ママは「息子にもっと栄養を」と抗議するが、半年前から失業して金がないとオールド・ニックは逆ギレする。さらに真夜中にジャックがタンスから出てきたことで、ママとオールド・ニックは争う。翌朝、部屋の電気が切られ寒さに震えるなか、生まれてから一歩も外へ出たことがないジャックに、ママは真実を語る。ママの名前はジョイで、この納屋に7年も閉じ込められていた。さらに外には広い世界があると聞いたジャックは混乱する。電気が回復した部屋で考えを巡らせたジャックは、オールド・ニックをやっつけようとママに持ち掛ける。しかし、ドアのカギの暗証番号はオールド・ニックしか知らない。ママは『モンテ・クリスト伯』からヒントを得て、死んだフリをして運び出させることを思いつく。ママはジャックをカーペットにくるんで段取りを練習させるが、恐怖から癇癪を起こすジャック。ママは、“ハンモックのある家と、ばあばとじいじがいる世界”をきっと気に入ると励ます。しかし、「ママは?」と尋ねられると、2度と息子に会えないかもしれないと知り、言葉に詰まる。そして、オールド・ニックがやってくる。脱出劇は失敗しかけるが、ジャックの記憶力と出会った人たちの機転で、思わぬ展開を迎える。翌朝、ママとジャックは病院で目覚める。ママの父親(ウィリアム・H・メイシー)と母親(ジョアン・アレン)が駆けつけるが、二人が離婚したことを知ってママはショックを受ける。数日の入院後、二人はばあばと新しいパートナーのレオ(トム・マッカムス)が暮らす家へ行く。しかし意外な出来事が次々とママに襲い掛かる。一方、新しい世界を楽しみ始めたジャックは、傷ついたママのためにあることを決意し……。(Movie Walkerより)







[予告編]








公開からかなり経って、かかってる映画館も少なくなってきましたが、なんとか今日観てきました。(5月6日時点での話です。例によってズボラなぼくはこの記事を何週間もかけて書いています。新鮮さもなにもあったもんじゃありません笑)

これ、超面白いです。

今の所の今年No.1かもしれません。

なんかすっごく優等生的なというか、面白いポイントをしっかり押さえた映画だったんですけど。

そしてなんとなく映画好きは優等生的な映画をベストに選んじゃいけない雰囲気あるんですけど。

でも言います。

これは、僕の中で生涯ベスト10には入る映画でした。

(だいたい2015ベストが『スター・ウォーズ フォースの覚醒』って時点で、ねえ笑)

何が良いって、全部良いんですよ。

いろんなポイント、全てがいい!


ポイント1 演者がスゴイ

まずお母さん役のブリー・ラーソンがスゴイ。

この人この役でアカデミー主演女優賞初ノミネートにして受賞するという快挙を成し遂げましたが、それも納得な演技。「部屋」の中での細かい気分の移り変わりや、「部屋」を出た後にも悩まされるトラウマ。インタビューで心無い質問を受けた時のショックや、でもやっぱり子供はちゃんと愛してるし、愛してるからこそばあばに子育てのことを言われたくない感じ。

あーこういうママっているよなあって思える、完璧じゃないけどでもママっていう演技がとっても良かった。

そしてそれよりもスゴかったのが主演の5歳の子供役を演じたジェイコブ・トレンブレイ君!!(どうでもいいけどスゴイ可愛くて、レオナルド・ディカプリオとかデイン・デハーン系の顔を経てマイケル・ケインみたいな可愛いおじいちゃんになりそう)

撮影当時は9歳だったらしいですけど、なんであんなに演技が自然なんだ。

初めて世界を目にした時の驚きとか、死んだフリ作戦の恐怖とか不安で泣き出しちゃうとか、ブスッとしてたのにママといるとつい笑っちゃう感じとか。9歳が5歳をって結構難しいと思うんですけど、ものすごく自然だし、愛くるしいしで完璧でした。

あと個人的にすごく「いいなぁ」って思ったのが祖父役のウィリアム・H・メイシーね。(これもどうでもいいけどすごい久しぶりに彼を観てなんだかとても嬉しかった笑)

もう見た目から頼りない犬みたいな顔してるし、これまでの役もなんか情けない旦那やパパみたいなのばっかりな彼でしたけど、今回もすごくいい味出してましたね。宇多丸さんもムービーウォッチメンで言ってたけど、「頼りなくて情けないんだけど半端に知ってる感じ」「心に受けた傷をもうどういう形でも消化したり成長に繋げられない立場の人」っていう分析がしっくりきました。


ポイント2 撮影・映像がスゴイ

この部分は宇多丸さんのムービーウォッチメンで散々分析され語られてたのであちらにお任せしますが、内と外のコントラストがよく出ている画面だったと思います。

撮影は『英国王のスピーチ』でアカデミー撮影賞にノミネートされたダニー・コーエンって人なんですけど、彼が『英国王のスピーチ』でもやった寄ったり引いたりとか、ボヤかすとかの手法が登場人物の心情と絡む形で使われて、なおかつ映像としても美しいっていう最高の映像だったと思います。

(思えば『英国王のスピーチ』も僕のなかでかなり上位にランクインする作品なので、僕は彼の撮る映像が好きなのか、あるいはこういうよく出来た作品が好きなのかもしれません笑)


ポイント3 ストーリー構造がスゴイ

今回僕が一番語りたいのがこの部分です。

何と言ってもストーリーが抜群に上手かった。

今作は予告やなんかでも母と子が外で抱き合ってるシーンがバッチリ映ってるので、「部屋」から脱出するまでがこの映画のキモではないってことはもう周知の事実だったと思うんですけど、実際ストーリーの前半は「部屋」の中で、後半はママの実家というようにストーリーの半分で舞台が切り変わります。

で、前半の「部屋」からの脱出パートは文字通り物理的にどう脱出するのかというところに焦点が当てられていましたが、後半の脱出してからはジャックの幼年期からの脱出と、「部屋」に精神が囚われてしまっているママのトラウマからの脱出というように、一貫して「脱出」がテーマではあるものの、前半と後半でその意味や作用が微妙に異なっているというのがこの脚本の上手いところだったと思います。

それに加えて「コントラスト」というのもこの映画のポイントの一つです。

「部屋」の内と外の対比、そして大人と子供の対比です。

特に大人と子供の対比は、後半パートで鮮明に効果を発揮し始めて、「今まで外の世界のことなんてなんにも知らないけど幼年期特有の順応性で適応する子供」と「外の世界で生きてたはずなのに「部屋」で起きた凄惨な事実と自分だけに起きた理不尽さのトラウマから抜け出せない母親」というコントラストが後半パートの脱出の手助けになっているという上手い展開なんですねこれが。

子供は吸収や適応がものすごく上手いので、全く知らない外の世界に放り出されても、ある程度慣れれば適合できるわけです。

主人公も初めて外の世界に出たとき、空の高さや世界の広さに驚き、ママ以外の人間に恐怖していましたが(そしてまたこの世界との接触シーンが美しい。初めて世界と出会った驚きと感動の演技が自然だし、そこで映る背景もめっちゃ綺麗)、徐々に徐々に慣れて、適合していけるわけです。

子供なりの理解と決着のつけ方で、部屋や過去に区切りをつけられるんですね。

それは視覚的にも示されていて、祖母の家でブロックを使って家(しかも「部屋」と同じように天窓がある家です)を作っているシーンがありますが、母親が入院した後に、彼がこのブロックの家を自分の手で壊すシーンがあります。これは初めて母親と離れ、自分なりのやり方で世界に入っていけた、自分で過去と決別できたという象徴的なシーンだと思います。

しかし母は違います。

彼女は外の世界を知っているだけに、26年(部屋の外では19年)生きている分だけ世界を知っているだけに、もう子供のように純粋無垢には事実を受け入れられなくなっています。

マスコミの心無い言葉に傷つき、世間の好奇に晒され、自らの運命の不条理に嘆き、どんどんと新しい世界を拒絶してしまう。

「部屋」から脱出できた後も、彼女はトラウマを抱え、「部屋」に心が置き去りになってしまっているんです。

そんな母を助けたのは子供でした。

彼はもうすでに、子供なりのなんとなくの認識ではあるものの、新しい世界を受け入れ、「部屋」との一区切りをつけています。

そんな彼は、もう一度、今度は精神的な意味で母を救うために、もう一度あの「部屋」に行きたいと言います。

「部屋」にトラウマを抱えている彼女は気が進まないわけですが、ジャックは半ば無理やりに彼女を連れて行き、そこで「部屋」に文字通りさよならを言うわけです。

「ママも”部屋”にさよならして」

そう息子に言われた母は小さく「バイ」とつぶやき、息子と共に「部屋」を後にするわけですが、このシーンでようやく、母は心理的にも「部屋」から解放されたわけですね。

前半の物理的な「部屋」からの脱出も、後半の心理的な「部屋」からの脱出も、どちらも子供ならではの受容性とケリのつけ方を用いて、自分と母を救う。という愛の溢れる構造になっているんです。

スゴイ構造でしょう!?笑



このストーリー構造がスゴイ!という部分が大きな基礎となり、ポイント1の俳優陣の巧さとポイント2の映像の綺麗さが階層的に重なって、ひとつの重厚な映画になっていると思いました。




ということで、もうかかってる劇場はほぼなくなっていますが、DVDで観ても十分面白い作品だと思います。

ぜひ、これら3つのポイントを押さえて、もう一度観てください!








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