2014年3月7日金曜日

【童貞農業高校生の青春】 映画『銀の匙 Silver Spoon』ネタバレ感想

童貞農業高校生が描き出す農業・命・人生

 


[作品情報]

タイトル:銀の匙 Silver Spoon


監督:吉田恵輔
脚本:吉田恵輔・高田亮
音楽:羽毛田丈史
主題歌:ゆず「ひだまり」
原作:荒川弘 『銀の匙 Silver Spoon』


出演:中島健人、広瀬アリス、市川知宏、黒木華、吹石一恵、上島竜平、哀川翔、竹内力、中村獅童、石橋蓮司


公開:2014/03/07


ストーリー
進学校に通いながらも受験に失敗し、寮があるからという理由だけで大蝦夷農業高校(通称:エゾノー)に入学した八軒勇吾にはこれといった夢もなく、農家の跡取りになるべく奮闘する友人たちにあまり馴染めずにいた。彼が入学した酪農科学科では朝5時から家畜たちの世話をしなくてはならず、大自然の高校に戸惑う日々。それだけではなく、家畜に対する考え方や友人である御影や駒場が抱える悩みなど、八軒は様々な困難に直面することになる。






[予告編]







家畜とはどうあるべきなのか。命とは何か。

特に観ようとは思ってなかったのですが、友達に誘われて公開初日に観てきてしまいました笑

僕は原作もあまり読んではおらず、登場人物をウィキペディアでちょっと予習するぐらいで劇場に向かったのですが、結構楽しめたなと思います。

正直役者に関しては、主人公をSexy Zoneの中島健人クンが演じているということしか知らなかったのですが、観てみるとあまりの豪華なメンバーに驚きました。(ジャニーズ主演だし、いろんなところから引っ張ってこれるんだろうなー)

特にヒロインの御影の家族は祖父に石橋蓮司、父に竹内力、叔父に哀川翔といういったいどこのヤクザだよ!!みたいなメンバーで非常にシュールな感じでした。

石橋蓮司が出てきてからは「石橋蓮司はどこでやられるんだろう」ということしか考えられなかったのですが笑、結局最後まで無傷なままで…残念。(当たり前です)

さて、ストーリーの話に移っていこうと思います。

銀の匙の主人公八軒は「新札幌付属中学」とかいう進学校に入ったもの受験に失敗。父親とも折合が悪く、家を出たい一心で全寮制の大蝦夷農業高校(通称:エゾノー)に入学してきます。

しかしさすがは農高。生徒たちの多くが酪農家の子供たちで、サラリーマン家庭で育った八軒とは考え方やモチベーションが様々なところで違います。

例えば豚の飼育スペースを見学した時。

まだ小さな豚が秋には出荷されると聞き、「可哀想だな」と感じる八軒に対し「あくまで経済動物」と割り切る他の生徒たち。

豚の解体作業を見学した後に豚肉定食が出されても、なんともなく食する他の生徒たちと、豚を思い出して食べれなくなってしまう八軒。

「普段は何とも思わず食べるくせに、都合のいい時だけ動物に同情すんなよ」

実家が酪農家である駒場が言った言葉ですが、非常に胸に刺さりました。

日本でもイルカ・クジラ漁などが「残虐だ」「知能の高い動物を殺すなんてひどい」「必要以上に血の出る殺し方をするなんて非道だ」などど一部から非難を受けてますが、抗議してる人たちに聞かせてやりたい言葉です。

ちょっと話はそれ、イルカ・クジラ漁の話をしますが、「残虐だ」といった非難は、まさに駒場が言うように都合のいい同情でしかなく、豚や牛や鶏を食うくせに調子のいいことを言うなと言いたいです。

「知能の高い動物を殺すなんてひどい」に関してはもはや反論するまでもないバカな指摘です。

「必要以上に血を~」という指摘も、イルカやクジラの肉が固まって食べられなくならないよう、強い臭いで食べられなくならないように海で血を抜くという方法であって、むやみやたらに血みどろの漁をしているわけではありません。

豚や牛や鶏だって血を抜く作業はしているはずです。

豚や牛や鶏はそれがまな板(というか解体場かな)で行われ、イルカやクジラはそれが海の中で行われているというだけです。

というか、外から見ると不思議なものを食べている国なんてたくさんあるもので、フランスではエスカルゴを食べるし、中国では蚊の目玉のスープがある。東南アジアにはバロット(孵化寸前の前の雛を食べる)なんて食べ物もあるわけです。

こういった料理は僕から見るとちょっと変わった料理で、僕からみれば普通ではないわけですが、それがオカシイ!とは思わないです。なぜならそれは料理という文化だからです。

外から見ると不思議な文化や料理なんてだいたいどの国にだってあって、それはその国々の問題ですよ。、他の国がどうこう言うことではないと思います。

それでもどうこういう人たちはそれこそ「偽善」というものでしょう。

そうじゃなくって。映画の中で八軒がしたように動物に向き合い、感謝して食べるべきではないでしょうか。そうやって人間は生きているんですから。

本編から離れて長くなってしまいましたが、駒場の言葉はそういった人間の傲慢さのような部分を鋭くついていたように思います。

また、豚の解体シーンでは電気ショックで豚を気絶させたり、顔や手足を切り落としたり、内臓を引き出したりと若干グロテスクなシーンもありましたが、食について考えるうえでとても大事なシーンだったんじゃないかと思います。


家族とはどうあるべきか。人生とは何なのか。

この映画には三つの家族が出てきます。

一つ目は主人公八軒の家族。

八軒家の父親は厳しい人物で、受験に失敗し農業高校に入学しようとする八軒を「逃げだ」といって見放します。

そんな父親を八軒は嫌がり、より父親から離れていくわけです。

このような経緯から八軒は「逃げ」に対してネガティブなイメージを持つ、一種のトラウマのようになるわけですね。

エゾコーの校長に「夢は何か」と聞かれても、逃げてきた八軒には答えられませんでした。

しかしそこで校長は「夢がないか。それはいいですね」と驚く言葉を発します。

「どんな人間になるか楽しみだ」と。

また担任からも「お前は逃げを極端に恐れているようだな。でも逃げてきた先で出会ったものは、そんなに悪いもんだったか?お前は逃げることも出来ない家畜動物とは違うんだぞ。逃げるための逃げなら、アリだろ」と言われ、逃げで入学してきたエゾコーで、何か自分なりにできることを探そうとし始めるわけです。

逃げかもしれないけれど、なんとかしようとするわけですね。

そして八軒は学際での部活の出し物を「ばんえい競馬」にしようと奮闘し、大成功。

映画では描かれませんでしたが、きっと八軒はこの後父親と向き合うのでしょう。


二つ目の家族は駒場の家族。

駒場の父親は過労で亡くなっており、今は駒場の母親が一人で幼い二人の女の子たちを育てながら牧場を経営しています。

これはものすごく大変なことだったでしょう。

駒場牧場は破綻し離農。駒場もエゾコーを自主退学することになります。

駒場はまだ小さい妹たちを大学に入れるため、必死に牧場経営を軌道に乗せたかったでしょう。

彼なりに思うことはたくさんあったと思います。

破綻してしまったため駒場一家は別の牧場に住み込んで働くことになりましたが、そんな状況でも駒場は母に言います。

「母ちゃん、俺これからやっていける気がするんだ」

きっと駒場のこの言葉は、八軒の「夢がないってことはさ、逆に何にでもなれるってことじゃないかと思うんだ」って言葉に動かされての言葉でしょう。

夢はなく農業経験は無いながらもエゾコーで奮闘する八軒をみて、これからの人生に希望を見出したのではないでしょうか。


三つ目の家族はヒロイン御影の家族。

御影の家族は酪農家でおもに乳牛を飼育して生活しています。おそらく駒場家よりも安定した収入を得てやっているのでしょうが、駒場家の連帯保証人になっていたこともあり飼育していた馬を売らなくてはいけなくなってしまいます。

御影は幼い頃から実家の農家を継ぐよう期待されていましたが、実は彼女は馬の仕事に就きたいと思っていました。しかし家族の期待を裏切ることが出来ず、悩んでるんですね。

結局、御影家の馬は売られてしまうのですが、「俺、家族と向き合ってみようかな。だから御影も向き合ってみなよ。やりたいんでしょ。馬の仕事」という八軒の言葉に動かされ、物語の最後にはばんえい競馬に携わる彼女が確認できます。


こうやって見てみるとこの作品は三つの家族の作品であり、その家族に八軒が(本人がそうしようとは思ってはいないものの)影響を与えていくという作品にも見えるわけですね。

八軒はただの鈍感童貞高校生のはずなんだけどな笑


それから興味深かったのがばんえい競馬の描き方です。

作中には三度、ばんえい競馬のシーンが出てきますが、これが描かれるタイミングが面白い。

というのも、三回ともすべて八軒や友人が困難を乗り越えるときに登場していたからです。

障害物を乗り越えてレースをするばんえい競馬を、登場人物たちが障害を乗り越えていくという象徴として使われていたのが、面白いなーと感じました。


愛すべき童貞主人公

銀の匙の主人公八軒は中島健人が演じていましたが結構良かったと思います。

こういう役なら神木くんに演らせりゃいいのにとも思いましたが、それじゃあ『サマー・ウォーズ』だw

銀の匙がサマー・ウォーズと決定的に違うところは主人公とヒロインが結ばれないところです。

銀の匙の八軒は最後まで御影とキスできません。

貫き通すんですね~。いや~素晴らしい。

可愛い友達に惚れるものの最後までいかない高校生の苦悩が、最後まで突き通されてます。

八軒自身はエロいことに興味はあるんですが上手くいかず…。

乗馬部に入ったのだって御影のおっぱいが気になったからだし、夏休みに御影家にバイトに行ったのも御影に誘われたから。

「ねえ八軒君、夏休みうちに来ない?ずーっとうちに泊まっていいよ」

「え?」

「バイト代もちゃんと出すから」

「そっちか…」

なんだかサマー・ウォーズに似てる気もしますが、童貞主人公に思わせぶりな態度をとるヒロインは青春映画に付き物みたいです。

「八軒君、御影とヤったの?」

「え?」

「御影はヤりたいみたいだよ?」

「そうゆうことってあるんだ…」

「そういうことも何も、豚のえさやり。今日御影と当番でしょ?」

「そっちか…」

うーん、残念!!

非常に残念な八軒君。中島君は上手く演じていたと思いますね。

(逆に中島健人と一つ屋根の下にいて、ヤらないなんて御影はどういう神経してるのか…。僕には理解できません笑)

そんな残念主人公演じた中島君も一か所だけ惜しいところがありました。

それは御影家の馬キング号が売りにだされ、御影がこらえきれずに涙を流すシーン。

ここで八軒君は大胆にも自分の胸を貸し、頭をなでたりしちゃうんですね。

なんでよ!!!

童貞主人公は頭なでたりしないよ!!

これがサマー・ウォーズならそれでもいいんです。ケンジとナツミは最後に結ばれるんですから。

でも銀の匙は違うじゃん!最後まで二人は結ばれないじゃん!

なのにそこだけカッコよくなるのは違うよ!

胸を貸すまではいいでしょう。御影から寄りかかってましたし。

でも本来このシーンは、胸に寄りかかってきた御影をキョドりながらも慰めつつ、ちょっとうれしい八軒と、泣いてるから寄りかかってはみたものの恋愛感情はまったく示さない御影っていうシーンにするべきなんです。

それなのに、何をイケメンフェイスで頭撫でてるんだ中島健人!!

童貞八軒にはそんなことできないよ!!笑

原作で二人の間に恋愛感情が芽生えているのかは分かりませんが、映画で一度もキスさせたりしないんなら、アイドル中島健人的な演技ではなく、あくまで童貞八軒として演じるべきだったかなーと思います笑

結構面白く観れたんですが、そこだけ徹底してほしかったなーと思ってしまいました笑

頑張れ中島健人!!w

ということで『銀の匙 Silver Spoon』の感想でした。

0 件のコメント:

コメントを投稿